Vol.48 2019 秋号
田中 敏さん【中野市】

通年栽培の桃太郎トマト。ホンモノの味を全国のお客様へ

田中敏さんは16年前、全くの素人から農業の世界に飛び込みました。厳しい時期を切り抜け、今は6棟のハウスで桃太郎トマトを通年栽培し、年間約250トンを生産しています。自社ブランド「陽(ハル)の香り」は市場の評価が高く、経営も安定してきました。大規模農業、法人化が日本の農業の未来を担うとされるなか、田中さんご夫婦にこれまでの歩みを伺いました。
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大規模な施設農業で健康なトマトを安定生産

中さんが専務取締役を務める有限会社フレッシュファクトリー。1棟約20アールもの広大なハウスの中は、まるで近未来的なトマトの林のようです。土壌の代わりに椰子殻を粉砕したものを使い、機械化された溶液栽培のシステムを採用しています。自社ブランド「陽の香り」のトマトを採れたてでいただき、赤く熟したところで食してみると、しっかりとした味わい。よくある水っぽいトマトとは違って、酸味と甘みのバランスが取れ、香りがほどよく、トマトを食べたという満足感が確かにあります。
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 「水、光、肥料、温度、CO₂が、トマト栽培の5大要素です。トマトの状態を見て環境を整え、質の良さと収量のバランスを取りながら栽培しています。どんなに機械化を進めAIを導入したとしても、人の感覚や経験がものをいうのが農業です」(田中さん)
トマトには数多くの品種があり、よく知られた品種・桃太郎の中にも10種ほどの品種があります。田中さんが選んだのは、桃太郎ネクスト。味・大きさ・収量の点で敏さんが考えるトマトの中のトマトであり、中野の地での施設栽培にも適しています。
農産物の安全基準GAPはまだ取得していませんが、すでに同等の安全性は当たり前にクリアしているという田中さん。健康で安心安全な「陽の香り」トマトは、4か所の道の駅、スーパーの直販コーナー、東京や長野の市場へ出荷されています。
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どうしたらいいのか・・・ 栽培の壁にぶつかる

田中さんは中野市出身。実家は機械製造業を営み、きのこ栽培の機器・設備のパイオニアとして、国内外で大きなシェアを占めています。きのこ栽培が盛んな中野市で、もともとは一生産者でしたが、人手がかかる栽培・出荷の工程を何とか省力化・自動化しようと工夫。1970年に菌種の自動瓶詰機を開発したのをきっかけに、今の地歩を築いてきました。
その新規事業として始まったのが、トマトの施設栽培です。土木会社に勤めていた敏さんが呼ばれ、責任者となります。 
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「大規模農業に憧れていましたし、トマトは高単価で収量性もいいので、いけると思ったんです」
2002年に660坪のハウス一棟を設備して苗を植え付け、翌年7月にフレッシュファクトリーを立ち上げます。半年後には、ほぼ現在と同じ1ヘクタールにまで規模を急拡大しました。
「ところが、栽培の技術が追い付かないので、すぐに壁にぶつかりました。栽培システムを納入した企業がコンサルもしてくれたのですが、まだ当時は確立されたノウハウがあったわけではなくて。栽培履歴を記録して自分でマニュアルを作るしかありません。始めて3~4年は、まさに八方塞がりでした」
莫大な初期費用をつぎ込んでいる上に、人手の確保にも悩みます。
「朝から晩まで働きづめなのに、不安で夜は眠れない、そんな状態がずっと続いていました」

人との出会いから活路が開ける

転機が訪れたのは、取引先の営業マンとの出会いから。アポなしで飛び込んできた営業マンでしたが、その知識の確かさが胸に落ち、人柄にも共感。肥料の購入のほか、様々な相談に乗ってもらい、その紹介で全国の先進的な農家と情報交換できるようになりました。こうして、栽培技術に自信が持てるようになります。生産が安定したので、9月から6月の期間栽培から通年での栽培に広げました。一年中仕事があるので、スタッフの雇用がしやすくなり、外国人研修生も来てくれるようになりました。
また、パートさんたちも仕事に愛着を持ち、主婦目線の提案をしてくれるようになります。例えば、産直のトマトに添える小さなカードもパートさんたちの意見を採用したもの。もぎたての青みのある状態から熟した状態まで、味の特徴と保存法やおすすめ料理を示して、よりおいしく食べてもらえるように工夫しています。

女性の心をとらえる商品化、通販を目指して

栽培に専心する敏さんを支え、パートさんはじめスタッフをまとめて事務方として活躍するのが奥様の綾さんです。
「今、ネット販売を始める予定で準備を進めています。トマトソースやドレッシングなどに加工して、付加価値を付けることも考えています」(綾さん)
贈答用トマトのパッケージ販売も検討中。生のトマト、トマトソース、レシピ集、そこにフレッシュなバジルの葉を添えて、女性好みの箱に詰めます。田園のイメージを漂わせ、プレゼントにしたくなるような商品に仕上げたいと考えています。
こうした新しい展開ができるのも、敏さんの長年の努力が実を結んできたからです。

わが家で過ごす時間が 明日への原動力

田中さん夫婦は2018年4月に、ホクシンハウスで念願のマイホームを新築しました。「家づくりは一切、妻に任せました」という敏さん。「中野は冬の寒さが厳しいですが、9歳と6歳の子どもたちも、この暖かい家でのびのび過ごしています。家事を効率的にこなせるように、子どもたちに目が届くように、夫が寛げるように、とりわけ間取りにはこだわりました」と綾さん。
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太陽光発電を行い、オール電化の家で余った電力は売電しています。
「以前住んでいたアパートよりも広くなって(総床面積45坪)、いう月がありました。もちろん初期投資はしましたが、効率のよさにうれしくなります」(綾さん)
敏さんは、朝6時から遅くとも7時には家を出て、帰宅は夜7時ごろ。栽培に片時も気の抜けない日々ですが、家に帰ればほっと肩の力が抜けるよう。大好きな日本酒が何本も並ベられているダイニングで、家族4人のだんらんの時間が始まります。
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