Vol.47 2019 夏号
宮田 富𠮷さん【大町市】

75歳での新築をきっかけに、農家民泊を始めました

長年、食の安全にこだわり、有機・低農薬で米やりんごを栽培してきた宮田富𠮷さん。2年前に75歳で築105年の旧家の隣に、新しい自宅をホクシンハウスで建てました。ご年齢からすれば、新築だけでもチャレンジングですが、翌年から農家民泊をスタート。中高生に思い出深い農家体験を提供しています。心の若さを失わない宮田さんにお話を伺いました。
vol47_ph01

アルプスの麓で農家体験 都市部の中高生の修学旅行

取材時、宮田さん宅で農家体験をしていたのは、船橋市立宮本中学校3年生の男子生徒5人。松川村役場が窓口となり、農家民泊として、都市部の中学・高校の修学旅行や林間学校の受け入れを行っている一環です。
宮本中学校3年生一行は8クラス約300人で、バスで大町へ。修学旅行2泊3日のうち、1泊を4~5人のグループに分かれて農家民泊で過ごします。
午前中、5人はりんごの摘果作業を行い、そのご褒美に、佐藤錦(さくらんぼ)の食べ放題。自分で木から摘み取って、自宅へのお土産も作りました。お昼には、自らも手伝いながら、当地ならではのおやきやにらせんべい、宮田家の特別栽培米や自家農園のりんご100%ジュース、自家製野菜などで昼食。午後は桃やなしの摘果作業が続きます。
5人に感想を尋ねると、「受験で大変な時期だけれど、京都・奈良のお寺めぐりではなくて、特別な体験ができてラッキー」
「今、義務教育のうちに、なかなかできない農業を体験させてもらえてよかった。摘果作業のやり方を教えてもらい、面白かった」
「ネットで景色を見てはきたけれど、実際に来てみると全然違う。自然のなかにいるという感じが、すごい」
また、宮田さんの家については、「想像していた田舎の家とは違うけれど、吹き抜けがあって天井が高くて驚いた」「ごはんがおいしい」「珍しいものがある(縁起物の大きな熊手や神棚を見て)」と興味深い様子です。
vol47_ph02

ただ泊まるのではなく 心の交流を図る

ただ宿泊、農業体験というだけでなく、生徒たちとの温かな交流がこの事業の特徴です。事前に、生徒たちの顔写真入りプロフィール(趣味、好きな食べ物など)が送られてきたり、宮田さんのほうで、宿泊予定の生徒たちに何をしたいかアンケートを行って、それを実現したり。事後に、お礼として寄せ書きが送られてくることも少なくありません。りんごの作業を体験した生徒から、「収穫できたら、送ってね」と頼まれることもありました。
「大人になってから、おじちゃんの家に泊まりにきてもいい?」と言われたときは、「うちは365日いつでもいいよ」。特に、大町の深い雪を見せてあげたいといいます。ホクシンハウスの暖かい家ですから、寒さに弱い都会の人も安心です。
引率の先生は別の場所に待機しており、生徒だけを自宅に受け入れる農家民泊。昨年、今年と各10校程度を首都圏や近畿地方などから受け入れてきました。
vol47_ph04
 
「今回の宮本中学の子たちは、意思もはっきりしているし、礼儀正しくていいね。以前、挨拶や食後の片づけもできない子たちが来たこともあったけれど、そういうときは“自分の食べた分くらいは自分で片づけるものなんだよ”と叱ってあげるんだ」という宮田さん。
よそのおじさんに叱られるというのも、中学生たちにとって、得難い経験になるに違いありません。
先祖伝来の宮田家の仏壇にお参りしてもらうこともあります。都市部では仏壇のない家も多く、大きな仏壇に驚く生徒が多いそうです。ちなみに今回の5人に聞いても、全員が家に仏壇がないということでした。
「仏壇の前では、皆、神妙な顔で手を合わせます。こうしたことも大事な体験であり、伝えていきたいことです」
vol47_ph05

メダルの期待がかかる奥原希望選手(バドミントン)の応援団

宮田さんのお宅には、バドミントンの奥原希望(のぞみ)選手の写真が大きく掲げられています。じつは、宮田さんの姉の孫にあたるのが、奥原選手。両親が共働きで、主に祖母に育てられた奥原選手にとって、「おばあちゃんの実家」はわが家も同然。幼いころから奥原選手をよく知る宮田さんは、熱心にその活躍を応援しています。
奥原選手は2016年のリオデジャネイロオリンピックで、日本勢初の女子シングルス銅メダルを獲得。世界ランキング3位(2019年6月)であり、来年の東京五輪ではメダル獲得が強く期待されています。
vol47_ph06
今回、宮田さん宅に泊まった5人は、全員が運動部に属し、オリンピックにも興味しんしん。夕食後は、定番の花火や大町温泉郷のイルミネーションよりも、「奥原選手の実家に行きたい」。
本人はいませんが歴戦の優勝カップやメダルがあり、お父さんのお話を聞くことができます。さっそく、奥原家にスマホで連絡した宮田さんが、「8時ごろに来ていいって」と伝えると、5人は大歓声。
「希望は小学校2年生からバドミントンを始めたんだ。兄と姉がいて、兄弟3人ともバドミントンをやっていたよ。もともと祖父は中距離走の国体選手、父も有力なスケート選手でね。それが、兄弟3人ともバドミントンをやったのは、父が高校の教員でバドミントン部の顧問になったから。部活の練習に子供を連れて行ったわけだね。
まだ小さな希望が、高校生や兄・姉とシャトルを打ちかわす。負ければ、涙を流して悔しがる。年上を相手にひるむことなく練習して、小6の時にはアジアユースジャパンで優勝するまでになっていた。負けず嫌いが今の希望を作ったんだね。東京オリンピックでは、絶対メダルを獲るといって、そのために今年1月にプロに転向したんだよ」(宮田さん)
vol47_ph07

誰にも負けない米づくり

宮田さんは話を続けます。「おじちゃんが誰にも負けないのは、米づくりだな」
有機・低農薬で稲作を行っている宮田さんの米は、特別栽培米。農薬と化学肥料の量を通常の栽培方法に比べて5割以下に抑え農林水産省が策定したガイドラインに沿って栽培されたお米です。また、長野県エコファーマーの認定を取得してすでに10年になります。2020年のオリンピックの食材調達基準とされたGAP(農業生産工程管理)の認定も申請中です。
そのうえ、味の良さでもお墨付き。米・食味鑑定士協会によるプレミアㇺライセンスクラブの一員であり、2015年には最高賞のベストファーマー賞を獲得しています。
15ヘクタールの稲田、1.2ヘクタールのりんご畑を持ち、そのほとんどをオーナー制度などで消費者に直接販売。こだわりの農業と安定した経営が、宮田農園の強みになっています。
vol47_ph08