Vol.46 2019 春号
高木 直樹さん【長野市】

環境にやさしく、人の健康に役立つ 都市環境の調査・研究を重ねて

信州大学工学部の高木直樹教授(都市環境工学)は、居住環境と健康についての造詣が深く、地球温暖化や都市整備など自治体の計画作成にも深く関わってきた碩学です。この3月末、定年退官の節目に取材させていただきました。ご自宅は、20年前に建築したホクシンハウスです。
vol46_ph01

都市環境を計測し 健康と環境について提言

30年ほど前まで、建築はそれ単体で考えられることが多かったようです。ご専門の都市環境工学は建築学のなかでも比較的新しい領域で、「建物の内と外」の両面に注目し、「都市の建物空間と地球環境を一体的にとらえて、建物の中をいかに健康的に快適にするか、かつ環境にやさしい都市をどう構築していくか」ということになります。
高木教授は、地上調査とリモートセンシング技術(人工衛星や航空機、ヘリコプターなどで宇宙・上空から地上を計測)を駆使して、都市環境の解析を行ってきました。ヒートアイランド現象が内陸の地方都市でも生じる仕組みなどを解明しています。建築物における温熱環境調査などを行い、騒音、気象、植生量などの都市環境も調査・解析してきました。
研究だけではなく、そこで得た成果を地方都市の行政・市民に提言するべく、NPO法人「みどりの市民」、環境市民団体「コペルニクス」に関わってきました。ながの環境パートナーシップ会議(長野市)の立ち上げも行っています。
vol46_ph02

長野県は全国でも先進県 温暖化対策条例

現在、長野県温暖化対策条例によって、建築物を新築しようとするときは、その建築物の「環境エネルギー性能」及び「自然エネルギー導入」について、検討することが義務づけられているのをご存知でしょうか。しかも10㎡超の建物が対象なので漏れがなく、全国でも先進的な条例です。
その陰には、高木教授はじめ関係者の努力があります。地球温暖化対策「長野モデル」第一次提言書を作成したときに中心的役割を果たしたのに始まり、高木さんは長野県地球温暖化対策検討委員会委員長等を歴任して、温暖化対策条例の策定と改正に力を尽くしてきました。
退官後の4月からは、信大工学部敷地内にある長野市ものづくり支援センター(産官学連携の拠点施設)に研究室を構え、「これまでの研究成果を施策に反映させ、省庁や企業との共同研究も進めたい」と話します。
大学内では特任教授として、学生の就職支援の役割を担っていきます。
vol46_ph03

高血圧を防ぐには温度差のない暖かい家を

大所高所からの提言に加え、地元の業者とも手を携えています。「信州の快適な住まいを考える会(SAH会)」、「信州健康省エネ住宅を推進する会」の会長を務め、工務店や資材メーカーを含めた産学共同での高気密高断熱住宅の普及活動を中心に、住空間の質的向上に努めています。
厚生労働省では、国民の健康寿命を延ばすために、脳卒中や心筋梗塞の要因となる高血圧を防ぐことを大きな目標としています。
一方、高木教授の研究では、品質のよい断熱リフォームを施した住宅は、リフォーム前より暖かくなり、住人の血圧は有意に下がることがわかっています。
「これまで血圧を下げるには、減塩と運動と言われてきましたが、じつは住宅も大きな要因です。温度差がある風呂場やトイレで倒れるというのはよく知られていますが、居室の温度が低すぎるのも危険です」
ちなみに、危険な室温とは、ヒトケタの温度とか。長野県内では、そうした家に住む人はまだまだ多いと思われます。
「もちろん、化石燃料をぼんぼん焚けば、温かくはなる。しかし、地球環境にはよろしくない。屋内の温度差も減らしたいし、CO2も減らしたい。そのために高気密高断熱の高性能住宅を普及させたいのです」

高木研究室からホクシンハウスへ

20年前、自宅をホクシンハウスで建てたのは、当時の信州の住宅研究会で紹介されたのがご縁です。データ測定を依頼されることになり、わが家を研究対象として分析評価。そのときに関わった学生が、木村大樹さん(一級建築士)です。平成12年に高木研究室を修士で卒業し、ホクシンハウス(北信商建)に入社。現在は、生産・管理本部部長・技術開発室室長として活躍しています。
「木村君からホクシンに就職したいと聞いた時は、本当にいいのかと、思わず引き留めてしまいました」
当時、ホクシンハウスは社員十数名の小さな企業。木村さんは、どこの大手有名企業でも欲しがる優秀な院生でした。
「当時さまざまな建物の計測をしていましたが、ずば抜けたホクシンハウスの高性能な家にめぐり会えたことで、私もこれからのFB工法の開発に携わりたいという思いが強くなってきたからです」(木村さん)
「ホクシンハウス社員全員でドイツに研修に行ったこともあり、そこでは賃貸アパートでさえ”エネルギーパス”が表示されていました。”エネルギーパス”とはEU全土で義務化されている「家の燃費」表示制度で、年間を通して快適な室内温度を保つために必要なエネルギー量を明示しているものです。その研修によりホクシンハウスも家の”定価”と”燃費”を明示するグリーンシードハウスを2009年に発売することとなりました。その4年後に長野県において住宅の燃費表示が義務化となったわけですが、その義務化が整備されるきっかけとなったのもホクシンハウスの燃費表示があったからだと聞いています」(木村さん)
「家を新築したけど、思ったより寒い、あるいは光熱費が高くて驚いた、という話をよく聞きます。日本でも、快適な暮らしに必要な家の燃費性能表示制度がもっと普及すればいいのですが・・・」と高木教授。
vol46_ph05

走り続けたマラソン人生

木村さんによれば、「高木研究室といえばマラソン」。200人弱の卒業生を輩出しましたが、その6割がフルマラソンを完走しています。高木教授自身は、小学生のときに学校代表のリレー選手に選ばれたことがきっかけでランニングに目覚め、今まで、100キロマラソン10本、フルマラソン75本、トライアスロン60本を完走。フルマラソンはサブ3(3時間を切って2時間台のタイム)の実力を持ちます。
この35年、自宅から研究室へは、ランニングか自転車で通勤を続けてきました。
「いやなことがあっても、走っている間に解消するので、家に不機嫌さを持ち帰ることはなかったですね。また、研究上のアイデアは、すべて走っている間に湧いてきました」
奥様の玲子さんは、「研究室への片道8キロを朝晩、雨の日も雪の日も走っていました。いやだというのを聞いたことがありません。
わが家の車が、私の使う1台だけなのもそのおかげですが、地球環境を考え、脱車社会という思いもあって、主義を貫いたのだと思います」と打ちあけます。
「お風呂の残り湯を洗濯に使うのは当たり前ですが、さらに主人はトイレに運んで使っています。そこまでしてとあきれますが、環境への配慮を研究だけではなく、普段の生活でもやっているんです」
玲子さんは、ご主人の素顔を「裏表のない有言実行の人」と話してくださいました。
vol46_ph06
vol46_ph04