Vol.4秋号
小林茂和さんご一家【飯綱町】

若い力で、安心安全・美味しいリンゴ作り

農業の担い手が高齢化するなか、リンゴ作りに全力で取り組んでいる若者をご紹介します。リンゴ栽培の適地飯綱町(旧三水村)の小林茂和さん(35歳)と今年7月に嫁いできたばかりの総子さんです。とくに土作りに熱心で、長野県認定エコファーマーでもある小林さんのリンゴは、安心安全でとびきりジューシー。収穫作業に忙しい小林さんにリンゴ栽培に賭ける意気込みをうかがいました。

農業専門にやらなくてはよいものは作れない

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取材に伺った9月初旬。小林茂和さんの丸茂ファームのりんごはたわわに実をつけ、作業場の中は出荷を待つ大量のリンゴが、さわやかな香りを放っていました。これは津軽という品種で、いう品種で、これから11月中旬のフジまで休む間もなく、出荷に追われます。
小林さん一家が耕作する田畑は2町5反歩。リンゴを中心に、米とアスパラを作っています。代々、農業を営んできましたが、近隣の農家と同様、茂和さんは農業をやらずに精密機械の工場へ勤務。とくに農業に関心もなかったといいます。ところが、9年前、父が亡くなり、やむなく母を手伝ってリンゴ栽培を始めます。勤務を続けながらリンゴを育てる二足のワラジ生活3年を経て、「兼業でやっていては、よいものができない。農家専業になろう」と決意。
近隣を見渡しても、高齢化は進み、担い手は減る一方。重労働ながら、自然相手のために安定した収入が得にくい農業は敬遠されるばかり。茂和さんが周囲の誰に相談しても、賛成してくれる人より、反対する人のほうが多かったと言います。せめて他の仕事と兼業でと助言してくれる人も少なからずありました。
それでも、同級生が農家専業にやっているのを見て勇気づけられ、「専業農家として、高品質なものを作ろう」と気持ちを固めていきます。
先代が栽培していたのは王林とサンフジのリンゴ2種と米だけでしたが、茂和さんは、サンツガル、秋映え、シナノスイート、シナノゴールドと収穫期の違う4品種を加えました。さらに現金収入の途絶える春先に現金収入を得るため、アスパラを作付けして規模を拡大してきました。できるだけ顔の見える関係のなかで消費者に作物を届けたいと、地元スーパーの地場産コーナーに出品したり、通信販売を始めたのも茂和さんの代になってからです。

有機農法・減農薬で丈夫に育ったリンゴ

茂和さんが、勤めのかたわら母のかつ江さんを手伝ってリンゴ栽培を始めたころ、一番、面白いと感じたのはせん定でした。春先によい花芽のつく枝を残してせん定しますが、この見極めが難しく、せん定が正しかったかどうかは収穫のときに答えが出ます。かつ江さんは「茂和はいつもハサミを握っていた」と微笑みます。リンゴ作りの先輩に教えを請うたり、仲間で切磋琢磨したり。先進地へ勉強に行くことも度々あるそうです。
父を亡くし、やむなく手伝い始めたリンゴ栽培に、茂和さんはのめり込んでいきます。親譲りの畑やリンゴの木を守ることは、会社に勤めるのとは違うやりがいや手ごたえを感じるようにもなりました。
次に茂和さんが注目したのは、土作りです。効き目は早いが土壌本来の力を失いがちな化学肥料をやめ、堆肥を中心に、魚介や骨粉を配合した有機肥料を使います。健康な土は健康な木を育み、農薬を減らすことができるようになりました。
「リンゴの木も人間と同じ。健康であれば、病気になりにくいし、虫もつきにくいんです」と茂和さん。感覚だけに頼るのではなく、毎年土壌検査を行い、土の状態を客観的に判断しています。
こうした努力が認められ、長野県のエコファーマー(認定番号 長野118)に認定されています。これは環境にやさしい農業を進めるための国の法律「持続農業法」に基づき、たい肥等による土づくりと、化学肥料・化学農薬の使用低減を一体的に行う生産方式を導入する農業者に対して、知事が認定するものです。
「有機質の土壌で丈夫に育てると、できたリンゴの味も色も違います。食べてみれば、違いはすぐにわかっていただけるはず」
リンゴが早く紅く色づくように薬品を使う方法もありますが、丸茂ファームはもちろん不使用。リンゴの色は同じ紅でも、食欲を誘う明るい色味をしています。霜や寒さを嫌って昔より早く収穫しがちなフジも、ここでは昔ながらに11月20日過ぎまで木に留めます。自然に蜜が入り、十分に味と香りが乗ってからの収穫です。
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恋人時代はリンゴ農園で手伝い

小林家の母屋は、昭和58年にホクシンハウスが在来工法で建てたもの。昨年8月には、FB工法で作業場を作り、将来、2階を住まいにすることもできる構造としました。こうして環境を整えて迎えたのが、7月27日の華燭の宴。新婦は、篠ノ井出身でデパート勤務の総子さんです。総子さんの実家は非農家で、「農家にお嫁にいくなんて考えたこともなかった」
しかも、友人の飲み会で出会って「ひと目惚れ」という茂和さんに対して、総子さんは「あまりピンと来なくて」メールの返事も出さず、2ヶ月ほど知らん顔。あまり熱心に誘われるので、一度だけのつもりで食事をしたのが、1年後に実を結ぶことになります。
アツアツの恋人時代、二人がよく過ごしたのは洒落たレストランやカフェではなく、なんと「うちの畑」。総子さんは頼まれたわけでもないのに、しばしば農園を手伝いに来てくれました。総子さんは「農家の仕事は、とても新鮮」に感じると言います。リンゴ作りを語ると、一晩でも話が尽きないという茂和さんにとって、願ってもないベストパートナーです。
今、二人はかつ江さんに支えられながら、茂和さんは農家専業で、総子さんは茂和さんが最初そうしたように勤務を続けながら休みの日に手伝っています。ちょうど、取材は、総子さんがかつ江さんに連れられてお寺の報恩講に新嫁として出席したあとでした。慣れない席に疲れたと言いつつも、地域デビューを果たした初々しい姿がそこにはありました。
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温暖化に負けないリンゴ作りを

地球の温暖化が進むなか、果物栽培の適地も変わろうとしています。北海道でリンゴ栽培が始まるというこの時節、信州リンゴのブランドもやがて揺らぐかもしれません。しかし茂和さんは、「三水は長野県でも北に位置し、しかも標高が500メートルと高い。日照時間が長く、朝夕の寒暖の差が激しく、リンゴ栽培の適地としてまだまだ大丈夫」と自信を見せます。
 農家にとって収穫を前にした台風ほど恐ろしいものはありませんが、三水は山に囲まれているため、台風の直撃を受けにくいという地のメリットもあります。
 「10年前に植えた木がやっとこのごろ収穫できるようになってきた」と語る茂和さんは、一方で、植えて2年で収穫でき、木の高さを抑えて作業をしやすくする新わい化の研究にも余念がありません。新しい家族を迎え、リンゴ作りにますます情熱を注ぐ小林さん一家。いずれ、三水の丸茂ファームといえばリンゴのブランドとして注目される存在になるよう期待しましょう。
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