Vol.17新年号
戸隠蕎麦・奥社前なおすけ【長野市 戸隠高原】

先代が残してくれた“地産の杉材”と“FB工法”で 「奥社前なおすけ」の伝統が継承される

戸隠神社奥社の入口に店を構える戸隠蕎麦「奥社前なおすけ」。初代当主の直亮(なおすけ)さんが後世に残すために植樹した北信濃杉とホクシンハウスのFB工法によって、戸隠蕎麦”なおすけ”が生まれ変わりました。伝統を受け継ぎながら、3代目の菅野広一(かんのひろかず)さんが戸隠産の蕎麦粉にこだわる評判のお店です。県産材利用・地産地消の好例でもある”奥社前なおすけ”を紹介します。

戸隠神社との深いつながり

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今、パワースポットでブームにもなっている戸隠神社。天の岩戸伝説にちなむ神々が祭られ、全国から広く信仰を集めて2000年余の歴史を重ねています。5つの社からなり、なかでも奥社は参道に巨木の杉が並び、荘厳で神秘的な雰囲気に包まれています。その奥社入口、鳥居のすぐ前にあるのが戸隠蕎麦「奥社前なおすけ」です。
戸隠神社の境内の中にあり、どうしてこんなところに個人の店が立地できるのか不思議になります。実は、菅野さんの義祖父にあたる碓井直亮(なおすけ)さんが、戸隠神社の御用商人として神社に深く貢献し、この地で商いを許されたのです。
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車がなく善男善女が麓から歩いて参拝していた当時休憩所のなかった奥社境内に、直亮さんが請われて茶店を出しました。それが現在の「奥社前なおすけ」の始まりです。当初の茶店は何人かの仲間で運営しましたが、次第に直亮さんが中心になっていきます。直亮さんは敬神の念が厚く、またお客様を大切にして「あの人こそ真の商人」と言われる人でした。85歳まで蕎麦を打ち、その温かい人柄は「名物爺さん」としてお客様に慕われ、95歳で天寿を全うしました。

初代直亮さんから2代目そして3代目へ受け継がれる

直亮さんから食料品店を引き継いだのが長男の碓井正昭さん。やがて食料品店を息子に任せ、自身は直亮さん同様に蕎麦打ちに専念しますが、体調を崩してしまいます。
そんなとき、夫・菅野広一さんとともに戸隠に戻ったのが正昭さんの長女・正美さんです。
「商家の忙しさが嫌で、サラリーマンの妻になりたかった」正美さんは、学生時代に知り合った広一さんと結婚。ゼネコンに勤める広一さんと千葉県柏市に住んでいましたが、祖父や父の戸隠蕎麦への思いを幼い頃から見ながら育ってきた正美さんは父の窮状を見過ごすことはできませんでした。広一さんもそんな正美さんの思いを汲み取り、二人は戸隠に新天地を求める決心を固めます。
一念奮起した広一さんは、親戚筋の名店で一から蕎麦打ちを修行。未知の世界でしたが、疲れたと思うことはあっても、嫌だと思ったことは一度もないと言います。
「もともと美味しいものへのセンスは鋭い人」と妻・正美さんが言えば、義父・正昭さんも「家庭を持ってからこの道に飛び込んだので、親から引き継いだ2代目3代目の連中とは性根が違う」と目を細めます。
しかし菅野さんは「蕎麦打ちを始めて3~4年目に、もう師匠と同じ蕎麦が打てると天狗になりました。しばらくして、自分の力のなさに気がついてズドンと落ち込んで、それから気持ちが変わり、日々上を目指して蕎麦を打っています」と苦心の道のりを振り返っています。
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直亮さんが植えてくれた杉とFB工法なら思い描く店ができる

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平成22年春、初代の茶屋から数えて4つめの店舗をこの地に新築。10年前に菅野さん夫婦がホクシンハウスで自宅を新築しており、その心地よさから他の施工会社は考えられませんでした。また、父・正昭さんは「娘夫婦の家の基礎工事を見て、惚れました。店のある場所はもともと沼地で地盤が悪いですが、ホクシンハウスさんなら任せられると思いました」。
店舗の木材は、ほとんどが碓井家の持ち山から切り出した北信濃杉です。「中学を卒業するころ、父・直亮と一緒に植えた木です。50年経ったら、店が造れるぞと言われて」
(正昭さん)
木を切り出す経費は馬鹿になりませんが間伐への補助金制度を活用することで乗り切ることができました。建物を建てるにはその土地に育った木材が一番いいと言われます。しかも、おじいちゃんやお父さんが想いを込めて植え、大事に育てた木材です。そのせいか、店内は穏やかな空気が満ちています。
菅野さん夫婦がこだわったのは、お客様の居心地のよさ。戸隠神社には女性一人の参拝も多く、そうした「お一人様」にも安心してそばを楽しんでもらえるように、窓に向かってカウンター席を設けました。
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テーブル席よりも一段低くし、テーブル席から外を眺めてもカウンター席の人影が気になりません。
「何か思うところがあって参拝される方も多いでしょう。奥社参道を見ながら、ゆっくりと蕎麦をたぐり、熱燗を楽しむ女性もいらっしゃいます。遠慮なく至福の時を楽しんでいただきたいと思います」(正美さん)
また、夏場はアウトドア派にも満足してもらえるように、蕎麦店には珍しいテラス席も造りました。

なおすけの蕎麦粉はすべて戸隠産

戸隠といえば蕎麦というくらい、戸隠蕎麦の名は全国に知られています。しかし、地元戸隠にある蕎麦店でも、国産はおろか中国産などの蕎麦粉を使う店は少なくありません。戸隠産は供給量が非常に少ないため、なおすけでも従来、戸隠産に長野県産蕎麦粉をブレンドしていました。しかし、やっと一昨年から農家の協力を得て戸隠産の蕎麦粉だけで打てるようになりました。「うちの蕎麦の味や、店の勢いが生産者にも伝わったのでしょうか。生産者の方との信頼関係のもとに蕎麦粉を頂いています。
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人間関係に重きを置く土地柄ですから、お金を出せば買えるというものではないのです」(広一さん)
蕎麦粉の質は、その年その土地の気候や条件によっても違ってきます。時には、中国産の最高級品が勝ることもありえます。
「それでも、この戸隠神社奥社で蕎麦を打つからには、私は戸隠産の蕎麦粉にどうしてもこだわりたい。たとえ厳密には味の違いが分かってもらえなくても。それでも「味が違うね」と分かって下さるお客様もいらして、その言葉に励まされます」(広一さん)

1月下旬から2月が1年で最も美味しい蕎麦の季節

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蕎麦は秋に収穫し、殻をつけたままの玄蕎麦の状態で保存。デンプンの糖化が進んで、蕎麦の味が熟成するのが1月下旬から2月です。これがいわゆる寒蕎麦で、一年中で一番美味しい時期です。このとき、なおすけは1年分の蕎麦を挽いて冷凍保存。大きな冷凍庫が必要ですが、親族の経営する食料品店に設備があるので、それが可能なのです。
 従来、厳寒期は閉店せざるを得ませんでしたが、FB工法の暖かな店舗になってからは冬も営業しています。しかも、やさしい暖かさを実感して頂くため、冬は靴を脱いで素足でくつろいで頂いています。暖かい店内で、雪の戸隠風景を眺めながら、一年中で一番美味しい蕎麦を味わってみませんか。しかも今年の蕎麦の出来は非常に良いとのことで期待が膨らみます。
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